憲法9条を越えて

中南米における人権と「自然の権利」


ジャーナリスト・9条連近畿会員 ブライアン・コバート

今、私たちは何をおいても日本国憲法9条を守るための新たな1年を迎えている。この時、私たちが孤立しているのではないことを知るのは心強い。地球上の多くの人々が、疑いなく憲法9条を守る運動、また憲法9条の精神の「輸出」の影響を受け、その国の法制度に大きな効果を上げている。

特に中南米の国々では、近年、大きな歩みを見せている。なぜ、中南米なのか。かつてアジアの国々が旧大日本帝国の直接支配を受けたのと同様に、中南米諸国はアメリカ帝国の残酷な政治的、経済的開発の直接の影響を感じていることに一因があるのではないかと考える。

日本で憲法9条の運動に関わる私たちの多くは、1949年に制定された中米、コスタリカの「平和憲法」をよく知っている。しかしそれ以上に憲法がもたらすものがある。

近年のいくつかの調査によると、発展途上国における貧困率の低さでコスタリカは世界5位、高い環境基準は世界3位、また、イギリスのシンクタンクによる「地球幸福度指数」調査(指数の基準は平均寿命、生活の満足度、地球環境との共存)によるとコスタリカ国民の「地球幸福度指数」は143カ国中、世界1位であった。さらに、コスタリカは複数の世論調査で、報道の自由、政府の透明性、旅行や観光産業、国際競争力において比較的高い順位に入っている。

2008年、南米12カ国の政治経済共同体である南米諸国連合(UNASUR)は設立条約を制定、2011年3月に発効した。南米諸国連合の設立条約の前文は「平和の文化」を推進し、「核兵器および大量破壊兵器の廃絶された世界」を目指すとしている。

12カ国の内の一つ、エクアドルの市民は同年、新憲法承認を票決した。エクアドルの新憲法の下では、他国の軍隊が別の国の領土内に存在することを認めていない。よって、2009年にはエクアドルに駐留していたすべての米軍部隊はエクアドルからの撤退を強いられた。(しかしながら、エクアドルには「自衛」のための自国軍が存在している。)

エクアドルは別の意味でも重要である。エクアドルの新憲法には「自然の権利」または生態系の権利を保障する条項を含んでいるのである。これは世界で初めてのものである。エクアドルではすべての人間が持つ人権と同様の権利を「自然」が持っている。一方、米国の法では「企業体」が人権と同様の権利を持っている。

また、同じく南米諸国連合の一つ、ボリビアでは2010年に「母なる地球の権利法」を制定し翌年4月に完全発効した。この法律では、生命への権利、生命の多様性への権利、水への権利、清浄な大気への権利、回復する権利などを含む11の自然に対する権利を認めている。自然は、人間活動から生まれる毒性廃棄物や放射性物質から保護されるなど、汚染のない環境の中に生存する権利を保障されているのである。

ボリビアのこの法律は、先住民族アイマラ出身のエボ・モラレス大統領の影響が大きい。このような法律が、地球の未来のためにいかに革命的であるかを理解するため、アメリカ先住民族出身のアメリカ大統領、または日本の先住民族アイヌ出身の総理大臣が、次世代の国民の未来のために国の経済をクリーンで持続可能な方向へ転換し、このような法律を制定した、と想像してみてはどうだろうか。

中南米諸国も完全ではない。しかし、私たちが学ぶべき多くのことがそこにあることを、認めざるを得ない。