ニューヨーク市民、『イエローキャブ』の著者を捏造者と呼ぶ
(New York Residents Call ‘Yellow Cab’ Author a Fraud)


ブライアン・コバート 和田浩明
記者

作家の家田荘子は、エイズ患者をテーマにしたノンフィクションや、ヤクザや国会議員の妻へのインタビューなどで有名で、それらの作品の中には映画化されたものある。

しかし、家田のジャーナリストとしての信頼性は揺らいでいる。1991年に出版されたベストセラー『イエローキャブ』の内容をめぐって、ニューヨーク市民から非難されているのだ。『イエローキャブ』は、麻薬を常用し、性に奔放なニューヨークに住む日本人女性たちの体験を描いた作品で、ノンフィクションとして出版されている。

この本は1年半前に出版されて以来、約35万部が売れている。

人種差別、やらせ(メディアによる捏造)などと、彼女を最も激しく非難しているのは、長年ニューヨーカーとして生きてきた人たちであり、中には『イエローキャブ』の制作のために家田に直接協力したと言う人もいる。

その一人が、ニューヨークの5番街にある旅行会社のオーナー、アラン・E・村上(56)だ。

「彼女の著書に出てくる『イエローキャブ』という言葉は、特に日本人の中では全く使われていない」と、アメリカ在住32年の村上は電話インタビューで語っている。 「なぜ今になってあの本が出てきたのか疑問だ。(家田は)イエローキャブのような人と言うが、私には誰のことだかわからない」。

家田の本名は京子アレキサンダーという。彼女は、『イエローキャブ』という言葉は、ニューヨークで人気のある表現で、日本人女性を表現しており、悪名高いニューヨークのタクシーのように、簡単に乗せてくれる、つまりすぐに誘いに乗るという意味だと説明する。そして、その相手のほとんどがアフリカ系アメリカ人の男性であると、彼女は本の中で書いている。 しかし、この本が出版される前のニューヨークでは『イエローキャブ』という言葉はほとんど知られていなかったと批判する人もいる。

村上は、家田が取材した11人のうちの少なくとも6人の人物像については、彼が家田に口頭で説明したと話す。例えば31歳のブティック店員、24歳のフリーライター兼麻薬の売人、35歳の主婦、23歳のメディアコーディネーター、21歳のドラッグ中毒で自殺未遂を起こして入院中の無職女性、35歳の元ファッション・スタイリストなどである。しかし、村上によれば、後者2人の人物像はある程度修正されているようだ。

ニューヨークに拠点を置く非営利団体で、現地の日本人居住者や旅行者が困ったときに相談に乗るための組織で日本評議会というものがある。これらの話は村上がそこで副会長を努めていた際に、実際に扱った過去の事例に基づいているという。

自身の経験から、彼はニューヨークの日本人女性がドラッグやセックスでトラブルに巻き込まれる深刻なケースは「100人に1人くらい」と推測している。そして彼は『イエローキャブ』と後の彼女の作品でハワイを舞台にした「リゾート・ラバー」は、どちらも美化された「ポルノ小説」であり、「海外に滞在している日本人を非常に侮辱的している」と述べた。

家田は自分がこのテーマで本を書いているとは一言も村上に言っておらず、1991年6月27日に初めて会って以来、二度と連絡してこなかったと、村上は言う。そして、この頃、アフリカ系アメリカ人のフリーライター、ジョージ・サラットJr. が、家田に代わってニューヨークで『イエローキャブ』の情報収集を始めたということである。

サラットは昨年12月16日の報道発表で、「私たちは一緒になって嘘のストーリーを作り上げ、彼女はそれに満足していた」「彼女は私の協力に対して報酬を支払い、出版社の経営者やテレビ放送局のスタッフを紹介してくれた」と述べている。

その後、32歳のサラットは、日本人女性との交際体験を綴った『ニューヨークの課外授業』(New York Extracurricular Lessons)という日本語の本を、家田の『イエローキャブ』を出した東京の恒友出版から出版した。 そもそも、この[『イエローキャブ』の]プロジェクトに参加したのは、家田が「出版を手伝ってやる」と約束したからだとサラットは言う。

サラットは、その後、自分の本がセンセーショナルに取り上げられたことで、出版社との関係が悪化したため、公表することにしたのだという。 『イエローキャブ』の少なくとも28箇所の正確性を否定し、この本のためにほとんどの取材をしたのは自分であり、家田が当初調査したという90人の人数を大幅に減らした、と主張している。 サラットは最近、『イエローキャブ』論争における自分の役割について、これ以上詳しく説明することを拒否している。

また、家田のマネジメント会社である、株式会社ヒロプロダクションもコメントを控えている。 そのかわりに、家田氏のスポークスウーマンは、ニューヨークの日本人コミュニティで活動する150人の草の根グループ「イエローキャブを考える会」(Association to Think Over the Yellow Cab Issue) に全ての質問をまとめてもらうことにした。

日米両国でこの問題について最も精力的に活動しているのがこの会である。

会は、家田が『イエローキャブ』という表現を使っていることに驚き、4月から5月にかけて独自の調査を行った。 マンハッタンの電話帳から200人を選び、「タクシー以外で『イエローキャブ』という表現を聞いたことがあるか」と尋ねたのだ

「はい」と回答した人は何人だろう。この会によれば、皆無だった。

主催者の一人である豊田正義によると、家田は彼の問い合わせに対し、「日本でネガティブな意味で使われているのを聞いたことがある」と曖昧に答え、誰から聞いたかなどの詳細は明かさなかったという。

会によると、この本には他にも「(ニューヨークの)イースト・ヴィレッジが、ジャパニーズ・ハーレム」と呼ばれている」など、いくつかの虚偽の記述があるという。

このような捏造により、ニューヨーク在住の日本人に対する強い偏見が生じているという。その偏見によっても、ある日本人学生は『イエローキャブ』を読んだ両親に反対され、ニューヨークへの留学を断念した、など不運なケースが出ている、と会は話す。

一方、家田の出版社である恒友出版の斉藤繁人社長は、そのような抗議の声にもかかわらず、彼女の作品を支持している。しかし、そこには若干の修正は加えられているのだが。

「『イエローキャブ』の構想は、私が10年前から温めていたもの」と斉藤は事務所でインタビューに答えた。 家田が『イエローキャブ』の執筆を誠実に、そしてプロとして遂行したことに疑いはないと彼はいう。

彼は、家田が1991年にアメリカのエイズ患者への彼女自身のボランティア活動を描いたノンフィクション『私を抱いてそしてキスして』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞し、日本で映画化されるなど高く評価されていることを強調した。

斉藤は「(家田のような)ノンフィクション作家にとって捏造は自殺行為ですから。私は彼女を信頼しています。」と述べた。 しかし、そのように信じていたにもかかわらず、後版の『イエローキャブ』には、重要な箇所に手が加えられており、当初の衝撃度を和らげていた。

例えば、この本の27刷では、家田のこの新しい注釈が挿入されている。「重ねて断っておくが、これはニューヨークに住む一部の日本人女性の話であって、決して全てではない。」斉藤は、今後も誤解を招かないようにするために、この他にも修正を行う予定だという。

ニューヨークでは、「イエローキャブを考える会」が抗議活動を進めており、メンバーは、納得のいく答えが得られるまでこのベストセラー作家に対し精力的に活動を続ける覚悟だという。 この会は5月14日に家田荘子に質問状を送ったが、返事はまだ来ていない。