スピリット オブ カンサイ 〜関経連会長、宇野収氏に聞く
(THE SPIRIT OF KANSAI — An Interview with Osamu Uno)


関西の有力なビジネス・リーダーの一人である宇野収氏は、企業家精神の申し子とも言うべき人物である。日本のビジネス、文化、政治の伝統的な中心地である関西で、数百年にわたって商人を育ててきたのがこの企業家精神である。

宇野氏は現在75才、腹蔵なく意見を述べる人であり、関西の企業690社から成る関西経済連合会(関経連)の会長であると同時に、大阪に本社を置く繊維会社、東洋株式会社の名誉会長を務めている。東洋紡入社は1966年である。

宇野氏は、1994年に開港する関西国際空港の大規模プロジェクトにも関わり、関西国際空港株式会社の顧問も務めている。更に政治問題にも関心を持ち、政府の臨時行政改革推進議会の副会長として、彼自身の言う、日本政界の「国際感覚」の欠如の改善に尽力している。

大阪を中心に活動しているジャーナリスト、
ブライアン・コバートとの単独インタビューで経済状況、関西の将来に関して宇野氏が述べられた意見をここでJAMM読者に紹介する。以下はその抜粋である。

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コバート:先ず、厳しい状況にある関西経済の今後の見通しについてお伺いしたいのですが。

宇野:2、3年前の好景気の下で、関西経済は他の地域よりも遥かに伸びました。その反動で他地域に比べて、土地の価額、百貨店の売上げ、雇用率、投資等において落ちが大きいのです。

しかし、見通しについて言えば、関西には多くのプロジェクトがあり、その金額は40兆円、その波及効果は3倍の120兆円と考えられます。現在は難しい状況にありますが、先ゆきについては、ある種の明るさを持っています。総じて、関西経済はこの春を底にして、上向きになると思われます。

コバート:関西新空港について、最近の関西経済界のある調査では、企業のほとんどが今計画中の2本の滑走路に出資する用意が出来ていないという結果がでていますが、この点についてはいかがですか。

字野:現在の厳しい経済状況では、第2の滑走路について実行可能なプランをたてにくいのです。また、第2の滑走路に資金を出すには、民間が現在難しい条件下に置かれているのも事実です。一方、株式会社でスタートしたという経緯があるので、何がしかの資金を負担すべきであるという意見もあります。しかし、この辺りは未だに明確になっておりません。先程言いました様に、第2の滑走路が必要であるという認識は更に深まりつつありますので、現実的な解決が出来ると私は思っています。

コバート:日本国内でも、例えば、大前研一氏(コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長)等から空港に関して批判が聞かれますが、関西新空港が関西にとって最も有益なプロジェクトであることを、どのように説明されますか。

宇野:大前氏の意見は、私たちにとって有益であったと思います。国際空港の本当のお客様は航空会社です。ですから、日本のJAL、ANAだけでなく、英国航空、ユナイテッド航空、ノースウエスト航空等の外国航空会社が、種々の面で魅力を感じる様な空港であるべきなのです。例えば、施設の面で優れ、着陸料に競争力があるということです。大前氏の意見は要点をついていると思います。私たちは既に空港セールスの活動を始めていますが、大前氏は非常に良い提案をしてくれたと思います。

コバート:関西と諸外国との関係は、東京のそれとは異なるように思います。関西は今後、諸外国とどのような関係を持っていくと思われますか。

宇野:日本の他のどの地域よりも、関西はアジア諸国との関係が深いのです。貿易統計を見ても、アジア向けの輸出入では、関西が全国的に見て高いのです。アジア向け輸出の約30%が関西から出ています。中でも、中国向けの比率が非常に高く、30〜40%に達しています。関西は、アジアのNIES諸国、ASEAN6カ国、中国などを含むアジアとの交易が多い地域です。将来もこの関係は続き、更に拡大していくでしょう。

コバート:国内問題に戻ります。最近、小選挙区制の導入への要求を表明され、行政改革の遅れを批判されましたが、現状についでどう思われますか。

字野:一口で言うと、極めて不満足です。しかし、今の中選挙区制度が全く駄目という訳ではありません。また、小選挙区制が絶対に良いという訳でもありません。現在私が不満に思っている中選挙区制の最も悪いところは、同政党の候補者が政策なしの選挙を行うという点です。彼らは互いに相手を非難し合って、単に議席を争うだけです。こういった問題を解決するためには、今論じられている小選挙区制の方が、少なくとも現状を変えていくという点で、望ましいかもしれません。

コバート:ここ数年、企業と政府を巻き込んだスキャンダルが幾つか取り沙汰されてきました。そういった関係を浄化し、国民の信用を取り戻せると思われますか。

宇野:ある程度は可能だと思いますが、それ以上となると難しいでしょう。モラルの低下が続く限り、いくら体制を変えても、浄化は難しいでしょう。

コバート:関西財界は、モラルの改善にどういう形で貢献出来るのでしょうか。

宇野:むしろ、あなたに伺いたいですね。(笑い)私たちは地域社会に暮らしているのですから、地域社会のために自分も犠牲を払うという自治の精神を、皆が持つようにする必要があります。この精神が企業モラルを向上させることにもなるのです。

コバート:女性や身体障害者など、社会的に軽視される傾向にある人々に、関西の企業はどのように雇用の機会を与え、また、その機会を更に増やして行くことが出来るでしょうか。

宇野:大企業はもっと身体障害者に雇用の機会を与えるべきであると指摘されていますが、どのように進めていくのかについて、全般的にまだ企業側の準備が出来ていないようです。しかし、女性の雇用は着実に進められています。身体障害の人々に雇用の機会を準備するために、これらの人々の訓練をどう進めていくか、社会全体が考える時期に来ていると思います。

コバート:京セラ社等のトップ・クラス企業に見られる様に、関西は独創的な企業が生まれることで有名ですが、何故この種の企業がいつも関西から生まれるのでしょうか。

宇野:まず、オーナーの能力の問題であると思います。更に、関西は周囲の環境が政治から離れているから、企業家精神を持って自由に行動し、発言し、経営することが許される雰囲気があるためだと思います。
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ブライアン・コバート 米国人ジャーナリスト。英字新聞 Mainichi Daily News の大阪スタッフライター。同時にUPI東京局の地方特派員でもある。大阪大好き人間。