メディアが戦争を作る時代
〜平和のためのメディアとは
ブライアン・コバート
こんにちは。ただいまご紹介いただきましたブライアン・コバートです。今日は皆さんにお話しする機会をいただき、とてもうれしいと同時に光栄に思います。
まず、この場をお借りして、今日の講演会開催のためにご尽力くださった松田先生と、兵庫県立大学の皆さまに感謝申し上げます。このような講演会で皆が集まり、ニュースメディアの抱える問題や、世界の戦争と平和の問題について、率直かつ聡明に語ることはとても大切なのです。
私の今日の講演は大きく分けて2つのパートから成ります。それは、問題提起と、その解決方法です。私は、これがこの課題に取り組む良い方法だと思うのです。と言うのは、ニュースメディアは最悪の時代を経験していると言える一方で、最高の時代にあるとも言えるのです。
今から約1時間にわたって皆さんに4つの主なポイントをお話しします。1つ目は企業の支配とニュースメディアの危険性について。2つ目は戦争とメディアについて。3つ目は独立メディアと市民メディアについて。そして最後にどうすればより賢明にニュースメディアを理解できるようになるか、この4つのポイントでお話しします。
私の話のあとに、質疑応答の時間があると伺っていますので、今日の話題について皆さんが積極的に質問および対話に加わってくださるのを期待しています。
企業の支配とメディアの危険性
それでは、1つ目のポイント、企業の支配とメディアの危険性についてお話ししましょう。
現在のメディアの抱える問題を主に3つに分けることができるでしょう。1つ目は政府によるメディアの統制や検閲。2つ目が企業のメディア支配。そして、3つ目にメディア自身による内部での自己検閲です。もちろん、これらはしばしば重複しますが、一般的には問題をこれら3つに分類することが、問題の理解を助けると思います。
例えば、中国は政府がメディアを厳しく統制している国です。これに対し、アメリカと日本は企業のメディア支配の方がはるかに大きな問題です。これら2つの国には報道の自由を保障する憲法があります。ですから、アメリカと日本の政府は自国のニュースメディアに影響を与えようとしますが通常は直接的なメディア検閲を避けます。
そして、メディアの自己検閲についてです。これは、ニュースメディア企業がいかなる理由であれ、重要な情報を公にしないという意識的な決定をすることです。これは世界中すべての国のメディアに、ある程度は関わってくる問題です。
次に、企業によるニュースメディアの所有について、信頼できるいくつかのデータを見てみましょう。メディアを専門にする、あるフランスの会社によると、2007年、世界で上位30位に入るメディア企業の所有者たちは、メディアによって合計2,150億ドルもの年間収益をあげています。
世界最大のメディア所有者はどの企業でしょうか。それはタイム・ワーナーというアメリカの企業で、メディアによって300億ドルの収益を出しています。これは、世界中すべてのメディアによる年間収益の13%を占めています。世界で2番目に大きいメディア企業はニュース・コーポレーションです。この会社はルパート・マードックというオーストラリア生まれのメディア業界大物によって所有されていますが、彼は現在アメリカ国民です。世界で3番目に大きいメディア企業はゼネラル・エレクトリック社です。この会社は原子力関連企業と軍需産業に深く関わっています。(余談ですが、ゼネラル・エレクトリック社は世界中すべての企業の中で6番目に大きい企業でもあります)。
世界第4位のメディア企業はCBSコーポレーションで、アメリカ大手テレビネットワークの一つであるCBSテレビネットワークの親会社です。この会社の親会社もまた原子力関連企業と軍需産業につながっています。そして、世界第5位のメディア企業は、ウォルト・ディズニー社です。何人かの方は驚くかもしれませんが、ディズニー社はアメリカでテレビニュースネットワークを所有しています。それはABCテレビで、大手テレビネットワークの一つです。5位まで、すべてアメリカの企業でした。
世界全体でメディア業界における上位30社のうち16社、つまり半分以上はアメリカの企業で占められています。アメリカの企業が、大多数のアメリカ人と、そして世界人口の大部分の人々が読み、視聴するものを支配していると言っても過言ではありません。明らかに、全地球に影響を与える世界的メディア帝国の本拠地はアメリカなのです。
では、世界第2のメディア大国はどこでしょうか。それは日本です。世界のメディア業界の上位30社のうち4社が日本の企業です。その4社は、朝日新聞社、読売新聞グループ本社、フジテレビジョン、そして日本テレビ放送網です。上位30社のうち日本に続くのは、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、そしてメキシコです。私たちは通常、日本をメディア帝国とは考えませんが、実際、日本はメディアの力と言う点で、アメリカに続き第2位に位置するのです。
このところ、私たちは、少数のメディア企業が小さな会社を乗っ取り、世界のメディア市場を支配しているのを目撃しています。そうなると、人々が生活の中で情報に基づいた決定を行うために必要な、実際のニュースの質と量が減ってしまうのです。民主的で平和な社会ではどこでも、自由で独立した報道機関が政府と国民の間で、チェックおよびバランスを取るというとても重要な役割を果たします。しかし、メディアの力は数年のうちに非常に少ない数の企業の手に落ちてしまいました。そして、市民に対し事実通りに情報を伝えるという責任を敬遠する傾向が、ニュースメディアに見られるのです。また、ニュースはメディア企業の所有者たちによって、ますます単なる娯楽の一つとして扱われています。これは本当に危険なことです。
そして、いくつかのメディア企業、それも、例えば世界第3位のメディアの所有者であるゼネラル・エレクトリック社が、兵器製造を専門とする企業も所有していることを考えれば、なぜ一部のメディア企業が熱心に戦争を報道するのか、そして一部のケースでは戦争を作る手助けまでしているのかをはっきりと理解できるでしょう。
ここで私が強調したい点は、私たちの時代のニュースメディアはもはや、かつてそうであったように「権力の中枢」から独立していないということです。独立性は報道の自由にとって非常に貴重で大切です。そして、情報に基づく社会はグローバリゼーション時代の中で失われ、今ではこれまでになく危険にさらされています。私たちが世界の出来事に関する報道、それも特にアフガニスタンとイラクで進行中の戦争について、細かく注意して見てみれば、メディアと戦争のつながりが、さらにはっきりと見えてきます。
戦争とメディア
これから何年も先の未来に歴史家たちは、アメリカがアフガニスタンと、そして特にイラクで行っている戦争を、いわゆる「メディアが作った戦争」の典型的な例として振り返るだろうと、私は確信しています。そして、この「メディアが作る戦争」は21世紀を支配するようになるでしょう。
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んでいくシーンを最初に見た時、自分がどこにいたのか覚えているのではないでしょうか。私自身は当時アメリカに住んでいて、事件当日はニューヨークからは反対側のカリフォルニアにいました。ジャーナリストとして、アメリカのニュースメディアがどのように報道したか、そして、その後911危機にどのように反応したのかを注意して見守りました。
ここで、あるニュース報道から引用しましょう。これは当時、多く見られた典型的な論調で、911攻撃を「汚名の日」、つまり1941年12月に日本軍がハワイの真珠湾にある米軍基地を攻撃した日と比較しているのです。「激怒と報復の弁護論」と題された記事は、次のように言って読者たちをけしかけています。
>「激怒の感情なしに汚名の日を生きることはできない。激怒しよう。」「必要なのは、統一され一体化した、真珠湾攻撃の時のような真っ赤になるほどの、アメリカ国民の激しい怒りだ。」
これらの言葉は、過激論者の出版物に書かれていたのではありません。この記事は911攻撃の翌日である2001年9月12日に、人気のあるタイムというニュース週刊誌のウェブ版に掲載されました。そして恐らく数十万人のアメリカ国民が読んだでしょう。そのころ、活字メディアにも放送メディアにも、多くの似たような報道が見られました。それらの報道はアメリカ政府と軍に911攻撃の恨みを晴らすようにけしかけ、アメリカ国民にその復讐を支持するよう奨励していました。
真珠湾攻撃時にアメリカのメディアがその当時も似たような報道をしたことを知れば、アメリカのニュースメディアが911攻撃をどのようにして真珠湾攻撃になぞらえたかが分かりやすいでしょう。第二次世界大戦中、アメリカのニュースメディアは公然とアメリカ軍を支持しました。1945年の広島と長崎への原爆投下も含めて支持したのです。
ニューヨーク・タイムズは政府と共に、アメリカ国民が原爆の使用を認めるよう仕向ける上で、一人の記者、ウィリアム・ローレンスを通じて特に重要な役割を果たしました。彼はアメリカ史上初のフルタイムの科学記者です。
1945年4月以降、ローレンスは同時に2つの給料を受け取っていました。一つはニューヨーク・タイムズの記者として、もう一つは当時のアメリカ政府陸軍省のために新聞発表を書く顧問としての給料でした。政府は、原爆の使用をアメリカ国民に認めさせるためローレンスを職員の一員として必要としていました。そういうわけで、ローレンスは最高機密だった原爆開発のためのマンハッタン計画の唯一の公認ジャーナリストとなりました。
ローレンスは、1945年8月9日、2番目の原爆を長崎に投下した爆撃機に搭乗し、日本への原爆投下を内側から目撃するたった一人のジャーナリストとなりました。ローレンス自身が見た長崎への原爆投下について、ニューヨーク・タイムズに書いた記事の中からご紹介しましょう。
>「今から約4時間のうちに、我々と闘うための武器を造っている日本の都市の一つが地図から消されるだろう。これまでに人間によって造られた物のうち、最も偉大なる武器によってだ。100万分の1秒の、そのまた10分の1という、どんな時計でも測ることのできないごくわずかの時間に、破壊的な嵐が空から、数千の建物と数万人の住民たちを粉砕するだろう。
・・・今にも死のうとしている、取るに足らない(日本の)やつらに対して、誰かが哀れみや思いやりを感じるだろうか。真珠湾攻撃や(フィリピンの)バターンにおける死の行進を思えば、誰も哀れみなど感じないだろう。」
第二次世界大戦後も、ローレンスはニューヨーク・タイムズに記事を書き続け、それらの記事は本質的に、政府がアメリカ国民に対して流す偽情報の役目を果たしました。
それは原子爆弾の放射能の危険性を認めず、アメリカの太平洋における核実験を促進していたのです。ローレンスは戦時報道により、ピュリッツァー賞を受賞しました。ここで、はっきりと分かるように、アメリカ政府とニューヨーク・タイムズの意図は、一緒になって第ニ次世界大戦での原爆投下から好結果を導き出すことだったのです。私の個人的な考えでは恐らく、このアメリカのメディアの行動はアメリカ史上最も恥ずべきものでしょう。
第ニ次世界大戦当時のニューヨーク・タイムズの話をしましたが、実は、2002年9月にもニューヨーク・タイムズは、戦争への道をつける報道をしています。ジュディス・ミラーという記者が、当時のイラクのサダム・フセイン大統領が核兵器、および化学兵器の開発をしているという記事を書き続けました。国連の核査察でさえも否定されていたにも関わらず、報道は続きました。そして、ブッシュ政権はこの報道をイラク侵攻のために利用しました。約1年、同様の報道が続いた後、ミラー記者の取材元がCIAの支持を受けていたイラクの科学者や政治家、またブッシュ政権内部にあったことが明らかにされました。
テレビもまた、この環境づくりにおいて重要な役割を果たしました。2003年3月19日、アメリカがイラク空爆を開始した時、アメリカで人気のニュースアナウンサー、トム・ブロコウは彼が毎晩担当しているNBCのニュース番組で全国の視聴者に、生中継で次の言葉を述べました。「私たちがしたくないことの一つは、イラクのインフラを破壊してしまうことですね。というのは、数日のうちに私たちはあの国を所有することになるからです。」
今日でさえ、この言葉を頭に思い浮かべるたびに、私はショックを受けます。ここで再び、戦争とアメリカ軍の勝利をアメリカ国民が受け入れるための環境づくりをしようという、ニュースメディアの意図が分かります。
また、FOXニュースのビル・オライリーは、保守派の人気のあるキャスターです。2001年の911後、このようなコメントを番組の中で話しています。2001年9月17日、事件からわずか1週間後の番組で、彼はタリバンと、アフガニスタンの人々に対して、罰を加えるべきであるという主張をしています。彼の言葉をご紹介します。
>「アメリカは、アフガニスタンのインフラを木っ端みじんにするべきだ。空港、発電所、水道設備、道路、すべてを爆撃すべきだ。アフガニスタンは原始国家だ。そんなものがなくなっても、日々の生活に困りはしない。」
また、オライリーはアメリカのイラク侵攻直前の2003年2月26日、番組の中で次のように述べています。
>「サダム・フセインとの戦いが始まれば、すべてのアメリカ人が我々の軍隊を支持するだろう。もし、そうできないのなら、そんなやつは黙っていろ。アメリカ人も、ましてや外国の同盟国で、このような時期に我々の軍隊に反対する者は、この私が国家の敵とみなす。」
ここで明らかに分かるように、影響力の強いメディアが、本来持つべき独立性を持たず、国民を戦争へ駆り立てるような役割を演じています。
さらに、先ほどイラク戦争前に誤った記事を書き続けてブッシュ政権がイラク攻撃に向かう事を助けたニューヨーク・タイムズのジュディス・ミラー記者のことを話しましたが、彼女はテロ問題の専門家のコメンテーターとして、ビル・オライリーのいるFOXニュースに迎えられました。これで、アフガニスタン侵攻やイラク攻撃を応援するメディアの輪は、完全となりました。
このような報道の結果、市民の意識がどう変わったかを調査した研究があります。2003年10月にアメリカのメリーランド大学が、FOXニュースを主に見ているアメリカ市民と、その他のニュース番組を見ているアメリカ市民を比較した意識調査を行っています。その結果によると、次の3点で明らかな差がありました。「サダム・フセインはアルカイダと緊密な関係を持って活動している」また「イラク政府は911事件に直接関与している」そして「世界の大多数の人々はアメリカが行っている戦争を支持している」この3点に関して、FOXニュースを主に見ている市民は、他の市民よりも、強く信じているのでした。この3点がいずれも正しくはないことは、ここにいる皆さんはご存知だと思います。しかし、この調査結果は、メディアとアメリカ政府の結びつきがいかに強固であるか、そして特にテレビニュースが戦時において、人々に強く影響力を持つかを示しています。
独立メディアと市民メディア
さて、ここからは、戦時における、企業支配と大手メディア企業の政府協力という問題に対する解決策についてお話ししましょう。私たちはどうすれば安定した平和な社会のために役立つメディアを持てるのでしょうか。私の考えでは、企業に支配されたニュースメディアの危険性に対する解決方法の一つは、独立メディアと、いわゆる市民メディアにあると思います。
この解決方法の典型例を皆さんにお話ししましょう。それはアメリカのジャーナリストで、2003年から2005年にかけてイラク戦争でいくつか最高の取材をしたダール・ジャマイルについてです。
ジャマイルは、アメリカが2003年にイラクに侵攻し占領した時に、アラスカで自然ガイドとして働いていました。彼はアラブ系アメリカ人でしたので、アメリカが中東で何をするか、非常に興味を持って見ていました。しかし、数ヶ月後に彼は、アメリカのテレビや雑誌、新聞で目にするニュースに大変落胆してしまいました。それらは、勇敢なアメリカ兵たちが愛する祖国のために戦っているニュースや、いつもぴたりと的中する豪勢なハイテク武器のニュースでした。しかし、何かが欠けていました。
ジャマイルは、アメリカのニュースメディアによる、余りにお粗末なイラク報道にうんざりしたため、自分自身がイラクに行くことを思いついたと言います。彼はとうとう、銀行口座から自分のお金を引き出し、中東への片道航空券を購入して、カメラとテープレコーダーを持って出かけて行きました。彼はイラクにほとんど知り合いもなく、アラビア語も流暢にしゃべれませんでした。何とかして彼はイラクに入国し、素早く現地の人々と状況を把握しようとしました。彼が到着した時、アメリカ軍はイラクを占領して7か月になろうとしていましたが、状況はますます、ひどくなっていました。
ジャマイルはイラクから数本の記事を書くことから始め、それをアメリカにいる親しい仲間たちに送りました。しかし、イラクの状況がさらに危機的になるにつれ、彼の記事はインターネットで次々と回されるようになりました。間もなく、彼はヨーロッパなどの地域のニュース組織のため、イラク取材をしました。短期間で彼は無名のフリーランスライターから最も優れた記事を書くライターとなり、彼がイラクで書いた記事はインターネットで発表されました。彼の記事はしばしば、アメリカの大手ニュースメディアが当時現地から報道していた、愛国的で、都合の悪い印象を薄めたようなニュース記事とは一致しませんでした。
アメリカ軍はイラク戦争で、ニュース記者たちを兵士たちから隔離するよりも、イラクのアメリカ軍の中へ入れる決定をしました。この「embedded(埋め込まれた)」報道システムに入ることに同意した会社の記者たちには、軍によって基礎訓練が施され、軍服とサバイバル器具が支給されました。その後、記者たちはアメリカ兵が生活している同じキャンプへ配属され、そこで毎日生活し、仕事し、寝食を共にするのです。アメリカ軍の意図はもちろん、ニュースメディアを管理下に置き続けることでした。アメリカ軍はメディアを使ってぜひとも、戦線から報道を形作ろうとしました。
ある米国国防総省の報道官は「私たちがしていることを、より多くの人々が見られれば、私たちはより多くの支持を得られるだろう」と述べました。また、ある米軍将校は「率直に言って、我々の仕事は戦争に勝つことだ。我々のその仕事の一部は情報戦争だ。従って、我々は情報環境を支配するつもりである。」こう発言しました。
そして、この「情報環境を支配する」戦略は、イラク侵攻が始まってからは、とてもうまく運びました。その成功の大部分は「埋め込まれた」記者たちがイラクの戦場で、常に自分の身や命を守るためには文字通り、アメリカ兵たちに依存しなければならなかったことによります。この戦闘における「英雄的行為」はその後、直接、ニュース報道に反映され、その記事をメディア企業のために働くジャーナリストたちがアメリカへと送ったのでした。
2003年3月にアメリカがイラクに侵攻した当時、約775人の記者およびカメラマンたちが「埋め込まれたジャーナリスト」としてアメリカ軍とアメリカを支持する多国籍軍の戦闘に参加していました。その結果、最悪の状態にあった戦争の真の実像は、全くアメリカ国民に示されませんでした。その戦争は、「無菌化」つまり好ましくない部分を削除してイメージアップされ、多かれ少なかれ現在でも無菌化されたイメージのままです。
そして、それがイラクのダール・ジャマイルのような多くのフリーのジャーナリストたちや、世界中の市民ジャーナリストたちが今日のジャーナリズムにおいて重要な役割を果たしている理由なのです。
このインターネットの時代において、「ジャーナリズムとは何か」という問いに対する答えは完全に変わりました。「オー・マイ・ニュース」という韓国のソウルに本部がある組織は独立したインターネットのニュースサービスとして世界最大と言われています。そのウェブサイトは今では、ハングル、英語、日本語の各言語で見られ、それが掲げるスローガンは「すべての市民が記者である」です。ジャマイルや韓国の「オー・マイ・ニュース」のような市民メディアが持つ力は、ますます大きくなっています。
いかにメディアを理解するか
〜メディアに精通した人間として21世紀を生きる
では、今日の私の講演における最後の項目に移りましょう。それは、いかにメディアを理解するか、メディアに精通した人間として21世紀を生きるか、ということです。
第一のステップとして、そのニュースメディアを、だれが実際に所有しているのか、という点に注意を払うことが助けになると思います。どんなニュース企業でも、何を報道して何を報道しないのかを最終的に判断するのは、編集者や記者ではなく、いつも企業のオーナーとトップの経営者層であるということを覚えておいてください。
第二のステップとして、今までよりも広い視点を持つことにより、私たちは見聞を広めることができます。大切なことは、何か一つの情報源を信用したり、どれか一つのニュース報道を額面通りに受け入れたりしないことです。真実のすべてを把握しているメディアは存在しないのです。ですから、私は皆さんに、独立系ニュース報道の比重を増やすようにお勧めします。
例えば、時々はフリーのジャーナリストたちや市民ジャーナリストのウェブサイトを見て、彼らがどんな問題をどのように報道しているのかを見てください。そして、主流メディアと独立メディアでは、どのようなギャップがあるのかという点に注意を払ってください。
私はまた、ニュース報道の中身を注意深く分析することをお勧めします。興味のあるニュースに接するとき、自分自身に2つの問い掛けをしてください。まず「このニュース報道は、どんな情報を自分に与えているのか」。そして「このニュース報道は、どんな情報を自分に与えていないのか」これらの質問に対する答えを、自分の頭の中で、並べて比べてみると、ニュース報道をより広く理解できるかもしれません。
そして、さらに、もう一つ次のステップに進むことをお勧めします。それは、皆さん自身がどのようにニュースメディアを変えれば、メディアが平和で安定した社会の情報ニーズに役立つようになるのか、考えることです。皆さん自身の声を世の中に届けるには、新聞や雑誌に投稿したり、テレビ局やラジオ局に電話して放送に意見を言うなど、伝統的な方法があります。そういった行動は、メディア企業に対して私たちの要求や必要なことを知らせる上で大切なのです。
私たちは今、メディアをただ批判する域を超えて、自分自身のニュースメディアを作り出せる手段や技術を持っています。私たちに必要なのは、それを実現する意志だけです。それが自分のブログや小規模のウェブサイトであれ何であれ、私は皆さんにメディアを理解するという「メディア・リテラシー」から「メディア・アクティビズム」(メディア行動主義)という次のステップへ進むことをお勧めします。言い換えれば、実際に市民メディアを作り出し、自分で何かを報道するのです。それが、どの社会においても、初歩から最高の段階まで、社会に変革を起こすことができると考えます。
さて、今日は、限られた時間でしたが「メディアが戦争を作る時代」というタイトルで、アメリカのメディアがいかにしてアフガニスタン、イラク戦争を作ってきたかをお話ししてきました。イラク、アフガニスタン側には一般市民も含め非常に多数の死者が出ました。また、多くのアメリカ兵も命を失いました。そして、現在も約14万人のアメリカ兵がイラクに駐屯している状況です。最後にある数字をご紹介します。ワシントンにある民間調査機関 ピュー・リサーチセンターの調査による、アメリカ国内のすべてのニュース報道のうち、イラク戦争に関する報道が占める割合です。2007年7月には15%でした。今年に入り、2008年2月には3%となり、この10月の最終週にアメリカ国内のニュース報道に占めるイラクに関するニュースの割合は2%でした。この数字が意味するものを、皆さん自身で考えていただきたいと思います。
以上で私の講演を終えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。